近年、多様性を受け入れるダイバーシティ・インクルージョンの必要性が謳われています。多様性を受け入れることは、実際どのように人に影響を与えるのかを SCIENTIFIC AMERICANが報告しているので紹介します。

【記事サマリー】

・女性がトップマネジメント層にいる企業の方が企業価値が高い
・人種が混ざったグループの方が円滑なコミュニケーションが行える
・多様な人種のチームによる論文の方が、信憑性が高く、引用回数も多い
・人種を混ざった陪審員の方が、より正確性のある議論ができる

 私たちは、自分とは異なる人々と関わることで、

より一層独創的に、寛容に、そして努力家になれる。

 長年にわたる科学研究所、心理学者、社会学者、エコノミスト、人口統計学者の研究によって、多様な人々(人種、民族、ジェンダー、 性的指向など)は均一的な人々より、革新的であることが証明されている。

 非凡で難解な問題解決を行う際、多様な専門知識を持つグループが、均一的な人々しかいないグループよりも優れていることは明らかだと考えられている。社会的な多様性についても専門知識と同じように思われるべきだ。しかし、社会的な多様性も同じような利点を持っていることは科学的にも証明されているにもかかわらず、一般的にはあまり知られていない。

 これは、多様な背景を持つ人々が新しい情報をもたらすからだけではない。ただ単純に、異なったグループの人々と関わることが、常識的な枠にとらわれない視点を養い、意見の一致を得る難しさを乗り越える訓練になるからだ。

 (この記事は、科学者や学生にも影響を及ぼした、トランプ大統領の移民を拒絶する大統領令に対応して、”多様性を受け入れることが科学に革新をもたらす”とした2014年の記事を再度掲載したものである。)

まずはじめに、多様性を受け入れることは困難になりうる事を認めなければならない。ダイバーシティ・インクルージョンに対しての議論が比較的進んでいるアメリカでも、「Diversity(多様性)」という言葉自体が不安や争いを招きかねない。アメリカ最高裁は、多様性を認める事の利点やその手段について肯定的ではない。大手企業も、多様性を認める事を対内・外的に訴えるために多額の資金を使いながらも、未だに差別をしていると起訴され、ビジネス界のトップリーダー達のほとんどが白人男性によって占められている状態が続いている。

実際のところ、多様性を受け入れる事のメリットはなんなのだろうか。多様な専門知識を持っている人々が利益をもたらすことは明らかだ。例えば、エンジニアやデザイナー、品質管理の専門家なしに車を作ろうとは誰も思わないだろう。一方で、社会的な多様性はどうだろう?人種、民族、ジェンダー、性的指向の多様性はどのような利益をもたらすのだろうか?ある研究によると、1つのグループの中での社会的な多様性は、不快感、粗雑なコミュニケーション、不信感、人間関係悪化に対する過剰反応、コミュニケーションの低下、結束力の低下、不敬に対する懸念、およびその他の問題を引き起こしかねないとのことだ。では、実際の利点はなんなのだろう?

それは、革新的なグループや組織を作るために、多様性は必要不可欠であるということだ。多様性を受け入れることで、クリエイティビティを高めることができる。また、新しい情報や視点を生み、優れた意思決定と問題解決を可能にする。多様性は企業の収益を増加させ、自由な発見と画期的な技術革新にも繋がる。ただ多様性にさらされているだけで、考え方をも変えることができる。これは単なる希望的思考ではなく、組織科学者、心理学者、社会学者、経済学者、および人口統計学者たちが行った何十年もの研究から得た結論だ。

 情報とイノベーション

多様性の有益な影響を理解するのに鍵となるのが、情報の多様性(informational diversity)だ。問題解決をするために集まったグループのメンバーは、それぞれ違った情報、意見や考え方をもっている。もう一度、多様なスペシャリストたちのチームが作る車の事を考えてみても、多様な専門知識が大切なのは明らかだ。同じ論理を社会的な多様性にも適用することができる。人種、民族、ジェンダー、性的指向の違う人々はそれぞれ、唯一無二の情報や経験を用いてタスクに臨む。男性のエンジニアと女性のエンジニアは、エンジニアと物理学者のように、それぞれ全く異なる視点を持っている。そしてそれは、とても良いことなのだ。

それは、大規模で革新的な組織に対して行われた研究でも証明されている。例えば、ビジネスを教えているマリーランド大学のクリスチャン・デスジョー教授とコロンビア大学のデイビッド・ロス教授は、ジェンダーの多様性が、アメリカの株式市場を反映しているStandard & Poor’s Composite 1500 listのトップ企業にどのような影響があるのか研究を行った。教授らはまずはじめに、1992年から2006年までの企業のマネジメント層の規模とジェンダー構成を調べた。次に、それぞれの企業の財務業績を調べた。教授らによれば、トップマネジメント層への女性参画は、企業価値にして平均4200万ドルの増加をもたらすとのことだ。また彼らは、企業の技術革新集約度(innovation intensity)も計算した。その結果、革新に重要性を置く企業は、女性が役職に就いている場合、さらなる財務利益を得ている事を発見した。

人種の多様性も、同じ様な利益をもたらす。2003年のテキサス大学ダラス校のオーランド・リチャード教授と彼の同僚は、177のアメリカの国法銀行の管理職や経営者を調査し、それぞれの財務状況、人種の多様性、イノベーションの重要性を比べるデータベースを作成した。この結果、革新性を重要視する銀行では、人種の多様性は業績のパフォーマンスの向上に深く関わっていることが明らかになった。

多様性が利益をもたらすことは、アメリカ以外でも証明されている。スイスのユニバーサルバンク、クレディ・スイスの研究機関Credit Suisse Research Instituteは2012年8月、2005年から2011年にかけて世界各国2,360社の会社を対象に、理事会や役員会のジェンダーの多様性と財務業績を比較した研究を発表した。

上記の他の研究結果からも推察できる通り、少なくとも一人の女性が理事会や役員会に含まれている企業は、低い負債比率(D/E)と、高い自己資本利益率(ROE)・平均成長率 を持つことが判明した。

女性役員数と財務業績

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女性役員が0人の企業の自己資本利益比率
女性役員が1人以上の企業の自己資本利益比率

多様性がどのように思考を刺激するのか

大量のデータを扱う研究には、明らかな限界がある。多様性が良い業績と関係していることは証明できても、良い業績をもたらしているかどうかは証明できないのだ。ただし、小規模な組織の多様性にまつわる研究が、人種の多様性と業績との因果関係を証明している。新しい価値観と多様性は、革新性を重視する組織にとって大切なものなのだ。

2006年、スタンフォード大学のマーガレット・ニール氏、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校のゴレゴリー・ノースクラフト氏、そして著者キャサリン・W・フィリップソンは、情報共有が成功に必須となる小さな組織での意思決定の際に、人種の多様性が与えるインパクトを調査した。調査は、イリノイ大学でビジネスを学ぶ学部生を対象に行われた。学生らは、3人1組の2種類のグループに分けられた。一方は全員白人のグループ、もう一方は白人2人と白人でない学生1人のグループに分かれ、それぞれミステリー殺人を模した課題を解いた。参加者全員に平等に与えられた情報の他に、他のグループメンバーには伝えられていないその参加者のみの情報も与えられた。殺人犯を探し当てるために、参加者達は話し合いの中で、それぞれが持っている情報を他のメンバーたちと共有する必要があった。人種の多様性があったグループは、多様性のなかったグループに比べ圧倒的に優れた結果を出した同じ背景を共有していることで、メンバー全員が同じ情報や同じ視点を持っていると考えてしまう傾向があるのだ。メンバー全員が白人のグループが、効率的な情報処理を行うことができなかった思考傾向、これこそが我々の創造性と革新性を妨げているものなのである。

他の研究者も同じような発見をしている。2004年、スタンフォード大学教育学大学院のアントニー・リンシング・アントニオ教授は、カルフォルニア大学やその他の機関の研究者と共に、規模の小さなグループディスカッションにおいて、人種・意見構成がどの様に影響するのかを調査した。この調査のために、350人を超える学生が3つの大学から集められた。参加者らは、一般的な社会問題(児童労働または死刑執行制度)について15分間ディスカッションを行った。その中で研究者らは、白人と黒人の参加者にそれぞれ、反対意見を述べる様に指示した。黒人の参加者が白人のグループに対して反対意見を提示した場合、その視点は斬新であると認識され、白人が反対意見を導入したときより大局的な思考と代替案が検討された。ここでわかったことは、我々は、自分と同じ背景や見かけの人から意見を得た時よりも、我々と違う背景を持つ人から意見を得た時の方が、思考を刺激されるということだ。

多様性がもたらす効果は、人種に限ったことではない。例えば、2013年、経営学を教えている、イリノイ大学のデニス・レウィン・ロイド教授、オクラホマ州立大学のクリンシア・ワング教授、オハイオ州立大学のルバート・B・ロント Jr教授と著者は186人に民主党支持者か共和党支持者か質問したのち、殺人ミステリーを読ませ、誰が犯罪を行ったのかを考えさせる実験を行った。次に我々は、参加者に別のグループに対して自分の考えを伝えるためのエッセイを準備させた。ここで注目すべきことは、全参加者が、相反する意見を持つパートナーと組み、お互いの合意を得るよう指示されていたことだ。参加者は、パートナーを説得し、自分の意見に同意させるように指示を受けた。ただし、参加者の半分は自分とは逆の党を支持している人に対して議論するように指示され、残りの半分は同じ党の支持者に対して議論するように指示された。

その結果、同じ民主党支持者を説得するように指示された民主党支持者の議論は、共和党支持者を説得するように支持された民主主義支持者よりも、説得力が低かった。共和党支持者にも同じパターンが見られた。我々は、社会的に異なる人と意見の相違があった場合、通常よりも努力するよう刺激される。多様性は、同質性では得られない方法で、我々の認知行動を刺激する。

だからこそ、多様性は質の高い科学研究結果をもたらしている。2014年、ハーバード大学教授であり全米経済経済研究所理工労働力プロジェクトディレクターのリチャード・フリーマン氏は、ハーバード大学経済学博士候補者ウェイ・ホァング氏 と共に、Thomson Reuters’s Web of Science(包括的な文献を掲載しているデータベース)に掲載されている1985年から2008年の間に書かれた150万の科学論文の著者達のエスニック・アイデンティティを調査した。その結果、民族的に多様なグループの書いた研究論文は、同質なグループによって書かれた論文より多く引用されており、インパクトファクター(Weblio引用:自然科学・社会科学分野の学術雑誌を対象として、その雑誌の影響度、引用された頻度を測る指標)指数も高かった。さらにリチャード・フリーマン氏らは、評価と信憑性の高い論文は引用や参照の数がそうでない論文よりも多いことを発見した。地理的多様性、そしてより多くの参考文献は、知的な多様性の反映であるといえる。

予測することによる力

多様な観点を導入することだけが、多様性の利点ではない。グループに社会的な多様性を加え、人々の間に多様な考え方があるかもしれないと「信じさせる(予期させる)」だけで、人々の行動は変わってくる。

同質なグループのメンバーは、お互いの思考・信念を理解でき、同意に至りやすいということをある程度確信しているため、安心してしまっている。しかし、社会的に異なるバックグラウンドを持ったメンバーがグループの中にいることを認識すると、その確信を変え、違った意見や考え方を予期し出す。彼らは意見の一致を得るために、より積極的になる必要があると考え始める。この論理は、社会的多様性のもたらす利点と欠点の双方を説明するのに役立つ。多様な環境は、人々の認知的、社会的な努力を促進する。人々はそれを快くは思わないかもしれないが、その苦労や努力はより良い結果を導き出すことができるのだ。

タフツ大学の社会心理学者であるサミュエル・ソマーズ氏は、2006年に陪審の意思決定に関する研究を行った。性的暴力事件についての審議の中で、人種的に多様な陪審員らの方が、白人だけの陪審員らよりも幅広い情報を交換を行っていることを発見した。ソマーズ氏は、ミシガン州の法廷の判事と陪審の管理者と協力して、実際に選ばれた陪審員のグループの模擬審査を行った。参加者は、模擬陪審が裁判所が後援する実験であるとだけ伝えられたが、実験の真の目的が、人種の多様性が陪審の意思決定に与える影響についてだということは、知らされなかった。

ソマーズは、6人の陪審員をすべて白人の陪審員、または白人陪竹審員4人と黒人陪審員2人で構成した。既に予想できていることかもしれないが、多様な人種を含む陪審員たちは、事件の事実の検討に優れており、関連情報について記憶に間違いが少なく、事件の中での人種の役割についてよりオープンに議論することができていた。この進歩は、黒人の陪審員たちが特別新しい情報を提示したからではない。白人の陪審委員たちの態度(姿勢)が、黒人の陪審員たちの存在によって変わった。チームの中に多様性があることで、彼らはより熱心に、そして柔軟になることができたのだ。

グループの中での多様性

次のようなシナリオを考えてみよう。あなたは、近々行われる会議のため資料を作成している。中国人であるあなたは、アメリカ人の共同制作者との間で意見の相違があったり、コミュニケーションがうまく取れなかったりするだろうと思っている。誰かと社会的な差異があれば、その人の文化や生い立ち・経験といった様々な相違点に注目するかもしれない。これは、もし同じ中国人が共同制作者であれば、考えもしない違いだろう。あなたはどのように会議の準備を進めるだろうか?おそらくあなたは、あなたの意見をより正確に伝えられるよう、普段よりも多くの選択肢を準備するだろう。

これが、多様性の仕組みだ。勤勉さと創造性を促進し、実際に誰かと接触する前に様々な選択肢を考慮させる。多様性に付随する苦悩は、トレーニングだと捉えることができる。身体を鍛えるためには努力が不可欠だ。古いことわざにもあるように、”労力なくして得るものなし”である。チーム、企業、そして社会全体の成長と 革新を得るためには、多様性は必要不可欠なのだ。

(引用元:How Diversity Makes Us Smarter